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木工四方山話(Moku-koubou Soutarou)

最終更新日:2009-04-19


No.024【木工家のための強度学講座7(椅子の力学)】・・・2005-12-03

 今回は、椅子の力学として、脚と座板(幕板)との接合部(ホゾ)に働く曲げモーメントに着目し、説明をしたいと思います。
(実質的に、よほどおかしな考え方をしない限り、椅子などが壊れるのは、ホゾなどの結合部であるため。)

 なお、いつも通り、材料力学などを学んだことの無い方にでもイメージをつかめる様、多少、強引な・・・安全サイドの説明をしますので、専門家の方々(学者の方、材料力学の専門家の方etc)・・・その変は、ご勘弁ください。


 まずは、どの様な状態のときに、椅子の荷重条件(曲げモーメント)が最もキツイ状態になるかを考えていただきたい。

 前回までの講座で、両端固定の場合と、一端固定(方持ち)の場合では、一端固定の方が、両端固定の場合の4倍もの曲げモーメントが働くことを述べた。
 ここで、椅子として考えると、両端固定の場合とは、椅子の全ての脚が地面について、ひとが座っている状態であり、一端固定の場合とは、ひとが椅子を傾けて座っている状態と言える。

 椅子を傾けて座るなど、使い方が悪い!と、言いたいひともいるだろう。
 でも、実際問題として、どうだろう?
 これまでのあなた、そして、あなたの周りのひと・・・椅子を傾けて座っていたこと、そんな様子を見たことは、ないであろうか?
 酷い時には、傾けて・・・更に揺らして・・・。

 箱物(箪笥)や、テーブル、数人掛けのベンチなどは、傾けて使用する場合の強度を気にする必要は、基本的には無い。
 ところが、ひとり掛けの椅子になると、これを考慮すべきであり、また、その状態が椅子にとって最も過酷な状態となる以上、注意すべき点だと、私は考える。

 椅子を傾けると言っても、その方向によって、荷重条件は、異なる。

 まず、前に傾ける、あるいは、左右に傾ける・・・これは、背板に働く力が無い、もしくは、方向が異なるため、接合部(ホゾ)に働く曲げモーメントは、座っている方の体重によるものだけと考えれば良いであろう。
(背の無いスツールを傾けて座る場合も、これにあたる。)

 次に、椅子を後に傾けて座る場合を考える。
 この場合、接合部(ホゾ)に働く曲げモーメントは、座っている方の体重によるものだけではなく、座っている方が背板を押す力によるものも付加される。
 この場合のモデル図を書くと、次の様になる。
クリックすると、拡大されます。
 
 a点:座っている方の体重による荷重(W)の作用点。
 b点:座っている方が背板を押す力(F)の作用点。
 o点:座板と脚、幕板と脚などの接合部。
 Θ:椅子の傾き角度。
(モデル図は、見やすくするため、大きな傾きで書いています。)

 o点に働く曲げモーメント(Mo)は、次の様になります。
Mo=Ma+Mb・・・(16)
 ここで、Maは、荷重(W)の分力によるo点における曲げモーメントであり、
Ma=(W・CosΘ)・La・・・(17)
となり、Mbは、背板を押す力(F)によるo点における曲げモーメントであり、
Mb=F・Lb・・・(18)
となる。

 椅子を前、左右に傾けた場合や、背の無いスツールの場合は、上図において、F=0の状態と考えれ良いため、Mb=0、つまりは、Mo=Maと考えれば良い。


 と、まあ、モデル化を行ない、計算式を記したが、実際問題として、全ての数値をいれ、計算をして強度検討するかというと、前講座まででも述べて来たように、そうではない。
 単純化、モデル化することにより、原理を知り、力をイメージして、実績ベースの変化点管理に活用していただければそれで良いと思う。
(ちなみに、JIS(日本工業規格)の木製品事務用いす(S 1028)の”いすの強度試験”では、座面強度試験と背部強度試験は、独立して行なう様になっており、負荷する荷重は、それぞれW=132.6kg,F=57.1kgの荷重をかけ試験する様に規定されています。)


 以上までに述べたことを踏まえて、ポイントを整理すると、次の様になる。

【椅子を設計する上でのポイント】

@座板(幕板)と脚の結合部(ボゾ)の強度は、全て同じで良いか?
 上記の如く、背板のある椅子の場合、後脚との結合部の強度を上げる必要がある。
(強度アップ方法については、前講座を参照方。)

A貫は、不要か?
 上記モデル図は、貫の無い椅子のモデル図である。
 貫を設けることにより、貫を介して、他の部材が荷重の一部を受けてくれるため、荷重条件が楽になる。
 肘掛も貫と同じ。
(肘掛がある椅子の場合、貫が無くても大丈夫であるが、肘掛が無い場合は、貫を設けるべき場合もある。)

B貫の配置は適当か?
 上記の如く、荷重条件が厳しくなるのは、後に傾けたとき、つまりは、前後方向である。
 前後方向の荷重を受け持ちやすい配置とすべき。
(4本の脚をそれぞれ繋ぐ貫の配置がベスト。)
(デザイン、製作の都合で、脚と脚のを繋いだ貫に、他の貫が入る様なデザインの場合は、前後の脚を繋ぐべき。左右の脚を繋ぐ場合は、その貫の強度アップ要。)

C脚と座板(幕板)との結合方法(構造)は良いか?
 脚に、座板や幕板がホゾで入り結合される場合(A)と、脚が座板にホゾで入り結合される場合(B)は、多少考え方が異なる。
(Bの場合、背板(スピンドル、コム)はホゾで脚と違う位置に座に入り、結合。)
 Aの場合、結合部(ボゾ)には、上記式(16)通りの曲げモーメントが働く。
 これに対して、Bの場合、荷重(W)の分力による曲げモーメント(Ma)と、背板を押す力(F)による曲げモーメントで(Mb)は、それぞれ異なる結合部(ホゾ)に係るため、条件が良い。
 また、Bの場合、荷重(W)による座板に係るせん断力が、脚の取り付けホゾを押しつける(胴付きを付ける)方向に働くため、より、条件が良くなることになる。
(Aの場合は、せん断力は、ホゾを切断する方向(せん断)に働くため、期待度0。)

D脚の取り付け勾配は、適当か?
 基本的に、椅子の脚を傾ける目的としては、椅子の安定性とデザイン(意匠)と考えられる。
 ところが、実際には、これだけではない。
 上記CのBの場合、脚の取り付け勾配が適切であれば、荷重(W)による座板に係るせん断力が、より強く、脚の取り付けホゾを押しつける(胴付きを付ける)ため、更に、条件が良くなることになる。


 なお、これまでのポイントは、ホゾに適切な胴付きが有るということを前提に書いています。


 上記の如きポイントを考慮し、より長く使える、良い椅子を作って行っていただきたい(作っていきたい)と思います。

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